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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)13号 判決

東京都墨田区本所1丁目3番7号

原告

ライオン株式会社

代表者代表取締役

高橋達直

訴訟代理人弁理士

薬師稔

依田孝次郎

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

佐藤久容

生越由美

後藤千恵子

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第5537号事件について、平成7年11月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年3月30日、名称を「ボトル」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願をし(実願昭59-45230号)、平成5年6月30日に出願公告された(実公平5-26038号)が、登録異議の申立てがあり、平成6年12月9日に登録異議決定に記載された理由によって拒絶をすべき旨の査定を受けたので、平成7年3月15日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第5537号事件として審理したうえ、平成7年11月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月25日、原告に送達された。

2  本願考案の一要旨

透明容器本体1の胴部にディスプレー用の表示部3のあるラベル2を、該表示部3が透明容器本体1を通して目視しうるように貼合し、この表示部3に対向する透明容器本体1の胴部に前記表示部3の視野内に含まれ、かつ該表示部3と互いに関連のある表示部4を前記ラベル2の一部又はラベル2とは別に貼合されるラベル5で配備したことを特徴とするボトル。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、本願出願前国内において頒布された刊行物である実公昭49-40460号公報(甲第5号証、以下「引用例」といい、そこに記載された考案を「引用例考案」という。)に記載された考案及び実開昭53-167965号のマイクロフィルム(甲第6号証、以下「周知例」という。)、実開昭55-65663号のマイクロフィルム(甲第7号証)にみられるように本願出願前周知の事項である「ボトルに貼合せたラベルの裏面に絵画等を表示しておいて、これを容器体に貼合せて、容器の対向する側から透視できるようにすること」に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願考案と引用例考案との相違点〈1〉、〈2〉の認定及び右各相違点に対する判断は認める。本願考案と引用例考案との一致点の認定は争う。

審決は、その拒絶の理由が拒絶査定の理由と異なるにもかかわらず、拒絶理由通知をしなかった手続上の瑕疵があり(取消事由1)、また、本願考案と引用例考案との一激点を誤って認定した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(拒絶理由通知欠缺の瑕疵)

(1)  本願出願に対する拒絶査定の理由は同日付の本件異議決定に記載された理由とされているところ、その理由は、本願考案は、本願出願前に国内において頒布された刊行物である実願昭54-118434号(実開昭56-34761号)のマイクロフィルム(乙第2号証添付、以下「拒絶査定引用例」という。)に記載された考案と同一であるので、実用新案法3条1項3号により実用新案登録を受けることができないというものである。

これに対し、審決の理由は、上記のとおり、本願考案は引用例及び周知事項に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないというものであって、拒絶査定とは証拠及び拒絶の根拠法条を異にし、査定の理由と異なる拒絶の理由に該当するものであるから、実用新案法41条によって準用される特許法159条2項及び同法50条(いずれの規定も平成5年法律第26号による改正前のもの。)により、審決をするに当たっては、原告に対し当該拒絶理由を通知し、意見書を提出する機会を与えなければならない。

しかるに、審判官は、原告に対し拒絶の理由を通知しないで審決をしたものであるから、審決には手続上の瑕疵が存在し、違法である。

(2)  被告主張の平成5年11月1日付け実用新案登録異議申立理由補充書(以下「異議申立理由補充書」という。)が平成6年1月25日付けで原告に送達され、答弁書を提出する機会が与えられたこと、原告が被告主張の実用新案登録異議答弁書を提出したことは認める。

しかし、異議申立理由補充書の記載として被告が引用する部分(乙第2号証2頁9~17行)は、異議申立ての根拠を摘示したものでみって、異議申立ての理由ではない。異議申立理由補充書記載の異議の理由は、本願考案(請求項1項の考案)が「甲第1号証」(拒絶査定引用例)記載の考案と同一であること、「甲第2号証」(周知例)記載の考案と同一であること、「甲第1号証」及び「甲第2号証」記載の各考案から容易に推考できるものであることの3点であって(同号証11頁17行~13頁16行)、審決が拒絶の理由及び証拠とした引用例は、異議の理由として示されていない。

したがって、審決が拒絶の理由としたところが異議申立理由補充書に記載されているとの被告の主張は失当である。

2  取消事由2(一致点の認定の誤り)

審決は、本願考案と引用例考案とを対比し、「引用例1の『透明輪郭部4』は、照準線6を表示させることにより、画面2の拡大された要部に照準を合わせたかの如き外観を呈している・・・。すなわち、透明輪郭部4は、画面2と互いに関連のある画像(照準線6)を表示させる表示部としての機能を有している・・・。したがって、引用例1における『透明輪郭部4』は、本願考案における『表示部4』に相当するものと認める。」(審決書4頁末行~5頁9行)とし、「この表示部(注、本願考案の「表示部3」、引用例考案の「画面2」)に対向する透明容器本体の胴部に前記表示部の視野内に含まれ、かつ該表示部と互いに関連のある表示部(注、本願考案の「表示部4」、引用例考案の「透明輪郭部4」)を該表示体の一部で配備した」(同5頁13~15行)ことを、本願考案と引用例考案との一致点と認定しているが、誤りである。

本願明細書(甲第2~第4号証)には、「表示部3、4は方向Aから同時に視野に入るものであって、立体感に富む一つの合成された表示部を形成することとなって、その表示内容は相互に関連して設けられる。」(甲第3号証5頁7~10行)と記載され、この記載と実施態様として掲げた4例に関する説明(同号証5頁11行~6頁4行)に照すと、「表示内容が相互に関連して設けられる」とは、表示部3と4の表示が合同して表示部3と4の各表示がそれぞれ有する趣向とは異なる趣向を看者に想起させること、あるいは、表示部3と4の表示が合同して初めて意味のある趣向を看者に想起させることを意味するものと解することができる。

これに対し、引用例においては、照準線6は必要に応じ円形の透明輪郭部4に十字に表示される旨が記載されているだけであって、これを設ける目的意図等は何ら記載されていない。そうすると、透明輪郭部4からは画面2の要部を透視できるだけで、その際、照準線6は画面2の表示と何らの関係ももたず、照準線6と画面2とが合同して何らかの趣向を想起させるということはない。被告は、画面2(動物の絵)と照準線6とは狩猟等の趣向を想起させて関連性があるものと主張するが、照準線6を猟銃の照準線と見るのは余りにも特異である。照準線は単に事物の中心を表すにすぎないとみるのが常識であるから、照準線6は単に画面2の中心位置を示すにすぎず、照準線6と画面2とによって格別の趣向を看者に想起させるものではない。

すなわち、本願考案は、互いに関連性のある表示部3と4とが合同して看者の興趣をそそる作用効果が期待できるのに対して、引用例考案においてはそのような作用効果は全く期待できない。

したがって、引用例考案の画面2と照準線6とが、本願考案の「表示部3の視野内に含まれ、かつ該表示部3と互いに関連のある表示部4」に相当するものでないことは明白であり、これが相当するものであることを前提とした審決の上記一致点の認定は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願出願に対する拒絶査定の理由が原告主張のとおりであり、本件審決の理由が拒絶査定とは証拠及び拒絶の根拠法条を異にすることは認める。

しかし、小野重彦からなされた本件異議申立てにつき、同人から証拠方法として、「甲第1号証」(拒絶査定引用例)、「甲第2号証」(周知例)及び「甲第3号証」(引用例)を添付して提出された平成5年11月1日付け実用新案登録異議申立理由補充書(乙第2号証)には、申立の根拠として、本願考案は上記「甲第1号証」に記載された考案と同一であることとともに、上記「甲第1~第3号証」の各刊行物に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に推考しうる程度のものであることが挙げられ(同号証2頁9~17行)、これらにつき、詳細にその理由が述べられている。

そして、本件異議申立書及び異議申立理由補充書の副本は平成6年1月25日付けで原告に送達され、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会が与えられ、原告は、これに対し、平成6年6月10日付け実用新案登録異議答弁書(乙第3号証)において、拒絶査定引用例記載の考案と同一であるとの異議理由に対しても、また、引用例記載の考案に基づく容易推考性をいう異議理由に対しても、これを充分了解したうえで意見を述べている。

したがって、審決の理由(証拠及び拒絶の根拠法条)は、本件異議申立ての理由に示されており、異議申立理由補充書の送達により、審判前に原告に対し通知されて、意見を述べる機会が与えられたのであるから、審決に当たって、あらためて同一の拒絶理由を通知する必要はない。

2  取消事由2について

引用例(甲第5号証)において、照準線6の表示に関し「必要に応じ」との文言の記載があること、該照準線を設ける目的が明示されていないことは認める。

しかし、引用例の「必要に応じ」との文言は、透明輪郭部に照準線を設けていないものと、これを設けているものの両方が開示されているものと解すべきであって、審決は、照準線を設けているものを引用し、本願考案と対比したものである。

また、引用例の「本考案は前記のようなコツプを美しく彩飾するとともに興趣深く使用できるものとする目的の下に完成されたもの」(同号証1欄26~28行)との記載、及び「透明輪郭部4から・・・主体1中を透視すれば、・・・レンズ作用によつて画面2の要部が拡大されて正視され、きわめて興趣深いものである。」(同2欄16~21行)との記載並びに図面に表示された画面2としての動物の絵、透明輪郭部4としての円形の窓及びこの透明輪郭部に設けられた照準線6の位置関係からみて、引用例考案は、照準線の入った透明輪郭部4から要部が拡大されて正視される画面2(動物の絵)によって、極めて興趣深いという作用効果を奏するものであるものと解される。

すなわち、照準線は狙いを定めるための線であるから、照準線を動物を中心に据えるように組合わせることによって狩猟等の趣向を想起させうることは、一般常識に照らして否定できないところである。そうすると、動物の絵と照準線6とが関連性があることは明らかであって、引用例考案は、透明輪郭部4に互いに関連性のある画面2の要部と照準線6とが合成されて表示されることにより、看者に狩猟等の趣向を想起させるものである。

他方、本願考案は、「表示部3と互いに関連のある表示部4」を設けることを要件とするに止まり、各図柄の具体的な組合せを限定しているわけではなく、一般に、複数の図柄がどのようなものの組合せであるかにより、看者が想起する趣向等が異なるものとなることは当然予期できることであるから、本願考案の「表示部3と互いに関連のある表示部4」により想起される趣向が、引用例考案の趣向に比して格別のものであるということはできない。

したがって、「この表示部(本願の表示部3)に対向する透明容器本体の胴部に前記表示部の視野内に含まれ、かつ該表示部と互いに関連のある表示部(本願の表示部4)を該表示体の一部で配備した」ことを、本願考案と引用例考案との一致点とした審決の認定に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(拒絶理由通和欠缺の瑕疵)についで

本願出願に対する拒絶査定の理由が、本願考案は拒絶査定引用例に記載された考案と同一であるので、実用新案法3条1項3号により実用新案登録を受けることができないとするものであること、これに対し、審決の理由は、本願考案は引用例及び周知事項に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができ、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができないとするものであって、拒絶査定とは証拠及び拒絶の根拠法条を異にすること、本願出願に対し平成5年9月29日に本件異議申立てがあり、異議申立書及び異議申立理由補充書の副本が平成6年1月25日付けで原告に送達され、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会が与えられたことは、当事者間に争いがない。

そして、異議申立書(乙第1号証)には、「申立の理由」として、「本願考案は実用新案法第3条第1項第3号及び第2項の規定により拒絶されるべきものである。」と記載され、異議申立理由補充書(乙第2号証)には、証拠方法として「甲第1号証」(拒絶査定引用例)、「甲第2号証」(周知例)及び「甲第3号証」(引用例)が添付され、その「申立の理由」欄には、「申立の根拠」として、「本願考案は、その出願前頒布された刊行物である甲第1号証に記載された考案と同一であるため、実用新案法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができないものであり、また、その出願前頒布された刊行物である甲第1乃至第3号証に記載された考案に基づいて、当業者が極めて容易に推考しうる程度のものであって、実用新案法第3条第2項の規定により登録を受けることができないものである。以下、その理由について詳細に説明する。」(同号証2頁9~18行)と記載され、以下、本願考案の各請求項ごとに新規性又は進歩性がない理由を記載していることが認められる。

これに対し、原告(出願人)は、平成6年6月10日付け実用新案登録異議答弁書(乙第3号証)を提出し、異議申立人の主張を「本願考案の各請求項それぞれについて甲第3号証を引用して新規性がないか、進歩性がない旨主張している。」(同号証3頁8~10行)と認識し、これに反論を加え、「甲第3号証記載をみても甲第1号証及び甲第2号証と同様に『ラベル裏面の印刷図案を見るために透明輪郭部即ち、切欠窓部を設けたもの』の例があるだけであるから、本願考案と同一であるとしたり、本願考案を予測したりする記載があると言うことができないので、この点に関する申立人の主張は、何等根拠のないものであって、理由のないものであることも明らかである。」(同号証8頁15行~9頁3行)として、異議申立ての理由のそれぞれに対し、実質的に答弁をしていることが認められる。そして、本願の実用新案登録請求の範囲第2項以下の項は、本願考案の要旨を示す第1項の実施態様項であることは明らかであるから、異議申立の理由のうち、第2項以下について述べている部分は、すべて、第1項に示される本願考案に対する異議理由として述べられていることは、弁理士である出願代理人において職務上充分に理解でき、この理解の下に上記答弁をしたものと認められる。

以上の事実によれば、異議申立理由補充書記載の異議申立ての理由には、審決が本願出願を拒絶すべきものとした理由も含まれており、これに対し、原告は、答弁書を提出する機会を与えられ、実質的に答弁をしているのであるから、本件審決をするに当たって、上記拒絶の理由をあらためて原告に通知し、意見書提出の機会を与える必要はないことは、明らかである。

原告の取消事由1の主張は、およそ採用できない。

2  取消事由2(一致点の認定の誤り)について

(1)  本願明細書(甲第2~第4号証)の「考案の詳細な説明」には、「作用」の項に「透明容器本体1の相対する胴部の同一視野内にラベル2、5をそれぞれ貼合してあるので、ラベルに形成された表示部3、4が同時に視野内に入って目視でき、その表示内容が相互に関連されて認識でき、遠近感或いは各種の意味をもって審美的に観察でき印象深く識別できる。」(甲第3号証4頁6~11行)と、「実施例」の項に「表示部3、4は方向Aから同時に視野に入るものであって、立体感に富む一つの合成された表示部を形成することとなって、その表示内容は相互に関連して設けられる。」(同号証5頁7~10行)、「例えば、風景のデザインにおいては表示部3に遠景を、また表示部4には近景や人物を配するものであるが、表示部3の表示は、・・・表示部3、4間に充満する透視可能の液体により、拡大されることとなるので、審美感が増大し、興趣をそそることもできる。また表示部3、4の一方に文字を他方に図柄を入れて組合せたり、表示部4のみを単一でも表示機能を持たせて表示部3、4間に不透明の液体が入っている場合にも、意味あるものとし、液体の減少により表示部3が露出して意味を付加するものとすること、あるいは表示部3、4の合同により初めて意味をなすものとすることなど適宜選べる。」(同号証5頁11行~6頁4行、甲第4号証補正の内容(3))と、「考案の効果」の項に「透明容器本体を通して視野に入ってくる前後の互いに関連のある表示部が遠近感を持って或いは種々な意味をもって目視できることとなって印象深く、かっ立体感を顕著に備えたボトル」(甲第3号証7頁13~16行、甲第4号証補正の内容(6))と各記載されている。

これらの記載に照すと、本願考案は、その「表示部3と互いに関連のある表示部4」との構成により、表示部3と4の各表示が同一視野内に認識されることにより、それが合同されて、遠近感又は立体感、表示部3と4の各表示がそれぞれ有する趣向とは異なる趣向、合同して初めて意味のある趣向等、審美的な観察あるいは興趣をそそることを可能とする効果を奏するものと解することができる。

(2)  他方、引用例(甲第5号証)には、その「考案の詳細な説明」に、「本考案は・・・コツプを美しく彩飾するとともに興趣深く使用できるものとする目的の下に完成された」(同号証1欄26~28行)、「図示の実施例に示すように透明ガラス製の主体1の外面に画面2が主体1の内側から正常に見られるように絵画3を層着し、前記画面2の要部に対向して正視できる位置において主体1の胴面には絵画3を欠いた円形の透明輪郭部4を形成し、さらに、前記透明輪郭部4以外には主体1内を透視できないように不透明彩飾層5を形成してなる・・・6は必要に応じ円形の透明輪郭部4に十字に表示する照準線である。」(同1欄28行~2欄7行)、「透明輪郭部4から・・・主体1中を透視すれば、・・・レンズ作用によつて画面2の要部が拡大されて正視され、きわめて興趣深い」(同2欄16~20行)との記載があり、その図面には、画面2に、草原にいる虎又は豹のような1頭の動物の絵を、その動物が画面2の要部に位置するようにして配置し、これに対向して正視できる位置に、動物のほぼ全体が視野に入るような大きさの円形の透明輪郭部4を設け、かつ透明輪郭部4に、十字型の照準線6を、その中心が動物の胸部付近に当たるようにして表示したコップが示されている。そして、これらの記載及び図示された配置に照らし、また、そもそも十字型の照準線の本来の機能は、対象物を遠望するための機器に設けられて、対象物を当該機器の視野の中心に据えることにあることを併せ考えると、透明輪郭部4から主体1中を透視すれば、レンズ作用によって拡大されて正視される画面2の要部の動物の絵と、透明輪郭部4に設けられた十字型の照準線とが遠近感をもって同一視野内に入り、それらが合同されて、猟銃のスコープ、カメラのファインダーあるいは望遠鏡等を通して動物を狙い見ているかのような感覚が生じ、狩猟、写真撮影あるいは望遠観察等の趣向が想起されるものと認められる。

すなわち、引用例には、画面2の要部の表示と透明輪郭部4に表示された十字型照準線6とが同一視野内に認識されることにより、それらが合同されて、初めて意味をなす格別の趣向を伴い、興趣深く使用できる容器が開示されているものと認められ、したがって、引用例考案の透明輪郭部4と画面2とは、本願考案におけると同様の意味で、互いに関連を有する表示部に当たるものということができる。

引用例において、照準線6の表示に関し「必要に応じ」との文言の記載があること、該照準線を設ける目的が明示されていないことは当事者間に争いがないが、このことが、前示認定の妨げにならないことは、あえて説明する必要がない自明のことがらである。

原告は、引用例考案の照準線6を猟銃の照準線と見るのは余りにも特異であり、照準線は単に事物の中心を表すにすぎないと主張するが、前示のとおり、十字型の照準線の本来の機能は、対象物を遠望するための機器に設けられて、対象物を当該機器の視野の中心に据えること、換言すれば、対象物の狙いを定めることにあることは経験則上明らかであるから、引用例考案の照準線6と画面2に配された動物の絵とから、猟銃のスコープを含むそのような機器を想起することは極めて自然であり、原告の主張は採用できない。

(3)  したがって、審決が、「透明輪郭部4は、画面2と互いに関連のある画像(照準線6)を表示させる表示部としての機能を有している・・・。したがって、引用例1における『透明輪郭部4』は、本願考案における『表示部4』に相当するものと認める。」(審決書5頁4~9行)と認定したことは相当であり、これを前提とした本願考案と引用例考案との一致点の認定に誤りはない。

原告の取消事由2の主張は理由がない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第5537号

審決

東京都墨田区本所1丁目3番7号

請求人 ライオン 株式会社

東京都港区虎ノ門1丁目4番4号 川村ビル4階 霞門国際特許事務所

復代理人弁理士 薬師稔

東京都杉並区西荻南4-4-15

代理人弁理士 高木正行

昭和59年実用新案登録願第 45230号「ボトル」拒絶査定に対する審判事件(平成5年6月30日出願公告、実公平 5-26038)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1. 本願手続の経緯

本件審判の請求に係る実用新案登録出願(以下「本願」という)は、昭和59年3月30日に出願され、平成5年6月30日に出願公告(実公平5-26038号)がなされたところ、実用新案登録異議の申し立てが2つなされぐそのひとつ小野重彦による異議申立についての登録異議の決定に記載された理由によって拒絶をすべき旨の査定がなされたものである。

2. 本願考案の要旨

本願考案の要旨は、平成7年4月14日付け手続補正により補正され出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。

「透明容器本体1の胴部にディスプレー用の表示部3のあるラベル2を、該表示部3が透明容器本体1を通して目視しうるように貼合し、この表示部3に対向する透明容器本体1の胴部に前記表示部3の視野内に含まれ、かつ該表示部3と互いに関連のある表示部4を前記ラベル2の一部又はラベル2とは別に貼合されるラベル5で配備したことを特徴とするボトル。」

3. 引用例

これに対して、登録異議申立人、小野重彦が甲第3号証として提示した実公昭49-40460号公報(以下、引用例1という。)に記載された明細書及び図面には、次のとおりの考案が記載されていることが認められる。

「透明ガラス製の主体1の胴部に、画面2のある絵画3を、前記画面2が透明ガラス製の主体1を通して目視しうるように透明ガラス製の主体1の外面に層着し、前記画面2に対向する透明ガラス製の主体1の胴部に前記画面2の視野内に含まれる照準線6の表示される透明輪郭部4を前記絵画3の一部で配備したコップ。」

なお、「透明輪郭部4から・・・主体1中を透視すれば、・・・レンズ作用によって画面2の要部が拡大されて正視され、きわめて興味深いものである。」(実公昭49-40460号公報第1頁右欄第16行乃至同21行)なる記載より、透明輪郭部4には、画面2の要部と照準線6とが合成されて表示されているものと解せられる。

照準線6は、ねらいを定めるための線であることから、コップを使用する人は、透明輪郭部4を介して、画面2の拡大された要部に照準を合わせたかの如き外観を呈することは明らかである。したがって、画面2の拡大された要部と照準線6とは互いに関連するものであるといえる。

4. 本願考案と引用例との対比

そこで、本願考案と引用例1に記載された考案(以下、引用例1という)とを対比する。

本願考案における「ディスプレー用の表示部3」は、考案の詳細な説明によると、遠景、図柄等のいわゆる絵を含むものであり、また、引用例1の「画面2」はいわゆる絵である。

したがって、引用例1の「画面2」は、本願考案の「ディスプレー用の表示部3」に相当するものと認められる。

また、引用例1の「透明輪郭部4」は、照準線6を表示させることにより、画面2の拡大された要部に照準を合わせたかの如き外観を呈していることは前述のとおりである。

すなわち、透明輪郭部4は、画面2と互いに関連のある画像(照準線6)を表示させる表示部としての機能を有しているものと認める。

したがって、引用例1における「透明輪郭部4」は、本願考案における「表示部4」に相当するものと認める。

ゆえに、両者は、「透明容器本体の胴部に、ディスプレー用の表示部のある表示体を、該表示部が透明容器本体を通して目視しうるように配置し、この表示部に対向する透明容器本体の胴部に前記表示部の視野内に含まれ、かつ該表示部と互いに関連のある表示部を該表示体の一部で配備した容器。」の点において一致し、以下の点において相違するものと認められる。

〈1〉 前者は表示体としてラベルを採用し、該ラベルを容器本体に貼合せたのに対し、後者は表示体として絵画を採用し、該絵画を、容器本体に層着した点、

〈2〉 前記「容器」が、前者ではボトルであるのに対して、後者ではコップである点、

で相違する。

5. 当審の判断

次に上記相違点について検討する。

相違点〈1〉について、

本願考案の「ディスプレー用の表示部3」も、引用例1の「画面2」もともに容器の表面に層着されるものの裏面に描かれたものである。

ところで、ボトルに貼合せたラベルの裏面に絵画等を表示しておいて、これを容器体に貼合せて、容器の対向する側から透視できるようにすることは、本願出願前周知の事項である(例えば、実開昭53-161965号マイクロフィルム(以下引用例2という。)、外に実開昭55-65663号マイクロフィルム)。

そして、引用例1の絵画を上記周知のラベルに変更するについて、本願考案が特別な工夫を講じたものとも解せない。

したがって、この相違点〈1〉は、引用例1の「絵画3」を従来周知の「ラベル」に単に変更したというにすぎず、当業者が適宜変更し得たことである。相違点〈2〉について、

本願におけるボトルは、「化粧料、洗料、飲料などの液体を収容する液体容器、特に透明ボトルに関するものである。」(実用新案公報第2頁第13行乃至同15行)なる記載より、液体容器の一種である。

一方、コップも飲料を入れる液体容器の一種である。

そしてまた、ボトルに貼合せたラベルの裏面に絵画等を表示「しておいて、これを対向する側から透視できるようにして、ラベルによる表示効果を高めることは、前述のとおり従来周知のことである。

さらに、引用例1のガラスコップをボトルに変更するについて、本願考案が特別な工夫を講じたものとも解せない。

したがって、相違点〈2〉は、引用例1のガラスコップを単に「ボトル」に変更したに過ぎず、当業者が適宜変更し得たところである。

6. 結論

以上のとおりであるから、本願考案は、引用例1に記載された考案及び上記周知の事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認める。

それゆえ、実用新案法第3条第2項の規定により、本願考案について実用新案登録を受けることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年11月16日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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